せいろを使い始めてから、魚を蒸す日が増えました。うなぎ、いわし、鮭、アジ。ひと月ほどで四種類を蒸したことになります。
やってみると、同じ「蒸す」でも魚によって結果がまるで違いました。骨まで柔らかくなるもの、崩れて皿に移せないもの、蒸しても脂が出てくるもの。そして焼いたときとは、明らかに別の食べ物になります。
この記事は、うちで実際に蒸した四種類の記録です。うまくいったことも、失敗したことも、そのまま残しておきます。

うちが魚を蒸すようになった理由
うちは植物油を使いません。米油もごま油もオリーブオイルも置いていないので、調理に使えるのは肉や魚から出る脂と、自家製のラード、あとは牛脂だけです。
そうなると、魚の調理法は自然に絞られます。焼くか、煮るか、蒸すか。揚げ物はしないので、実質この三つです。
長らく焼きが中心でした。いわしの一夜干しはほぼ毎日食べているので、グリルは毎日稼働しています。ただ、グリルは掃除が面倒です。使うたびに受け皿を洗って、網を洗う。この作業が地味に効いてきます。
せいろを使い始めたのは、そういう流れの中でした。何も敷かず、何も足さず、並べて火にかけるだけ。しかも洗うのはせいろだけです。油を使わない調理法として、これ以上ないくらい素直な方法でした。
フライパンで魚を焼く場合、油を使わないとくっつきます。魚から出る脂だけで焼こうとすると、はじめのうちは張りつくので、結局グリルに戻ることが多い。せいろにはその心配がありません。くっついても紙を敷いておけば済みますし、そもそも動かさないので張りつく場面がないんです。
うなぎ|箸で持ち上がらないほど柔らかくなった
最初に蒸したのはうなぎです。
結果は、想像の上をいきました。箸を入れた瞬間にぐずぐずになって、持ち上げようとするとちぎれる。やわらかくてやばい、という感想しか出てきませんでした。
うなぎはもともと蒸してから焼く調理法があるくらいなので、蒸しとの相性はいいはずです。ただ、すでに焼いてある市販のうなぎを蒸すと、そこからさらに柔らかくなります。温め直しのつもりが、まったく別の食感になりました。
レンジで温めるとどうしても固くなって、身がしまります。せいろだと逆で、身がほどけていく。同じ「温め直し」でも、こんなに違うのかと驚いたのが最初の一回でした。
うなぎは市販のものを買うと、たれに砂糖が入っています。うちは砂糖を避けているので毎日食べるものではありませんが、こういう日もあるという線引きでやっています。蒸すこと自体には油も何も使わないので、そこだけは気が楽でした。


いわし|骨まで柔らかくなって、そのまま食べられた
うちの定番、いわしの一夜干しも蒸しました。
これは骨まで柔らかくなりました。普段は骨を残しながら食べるんですが、蒸したものは骨ごといけます。長時間煮た魚に近い状態で、それが二十分ほどでできる。
いわしは何度も蒸しているので、味付けの実験もしています。生姜がなかった日に梅とにんにくで強行したことがありますし、生姜と酒だけで蒸した日もあります。後者は魚のくささがきれいに消えました。酒と生姜は、蒸し料理でも効きます。
ここで分かったのは、蒸すと味付けが素材に入りやすいということです。焼くと表面に味がつきますが、蒸すと湯気と一緒に全体に回る。梅の酸味も生姜の香りも、身の中まで届いている感じがありました。
いわしは毎日食べているぶん、味変を探し続けています。塩焼き、酢焼き、ガーリック、ガラムマサラ、梅生姜。ここに蒸しが加わったことで、同じ食材でも組み合わせが一気に増えました。焼きの味変は表面の話ですが、蒸しの味変は中まで届くので、別の軸として使えます。


鮭|蒸しても脂は出る
思い込みが崩れたのが鮭です。
蒸せば脂は落ちるものだと思っていました。ところが下に敷いた紙を見ると、しっかり脂が出ている。しかも焼いたときとは出方が違って、じわっとにじむような感じです。
出ているのに、身のほうにも残っています。焼いたときのようにパリッとはしませんが、全体がしっとりして、塩気の角が取れる。同じ魚でも火の入れ方でここまで変わるのかと感心しました。
ただ、崩れやすさも鮭が一番でした。皿に移そうとした瞬間にちぎれて、盛りつけで台無しにしています。せっかくきれいに蒸せても、最後の一手で崩れる。ヘラを使うか、器ごと蒸すほうが安全かもしれません。
脂が落ちないのは、良し悪しがあります。うちは魚の脂を避けていないので気になりませんが、脂を落としたくて蒸すという目的なら、期待とは違う結果になるはずです。落としたいなら焼くほうが確実でした。


アジ|蒸しすぎると身が持たない
アジの一夜干しでは、蒸しすぎの怖さを知りました。
こちらもしっかり柔らかくなって、箸を入れるとほろっと崩れます。おいしいんですが、油断すると身が持ちません。蒸し料理は放っておけばいいと思っていたら、そこは違いました。
焼くのと同じで、引き際があります。ただ厄介なのは、蒸しはふたを開けるまで状態が見えないことです。焼いていれば表面の色で分かりますが、せいろの中は湯気で真っ白で何も見えない。気づいたときには行きすぎている、ということが起きます。
慣れるまでは、途中で一度ふたを開けて確認するくらいでちょうどいいと思います。開けると温度が下がるので手放しでは勧められませんが、失敗するよりはましです。
一夜干しは、もともと水分が抜けている状態です。そこに湯気を当てるので、思っている以上に早く火が入るのかもしれません。生の切り身と同じ感覚でいると、行きすぎます。干物を蒸すときは短めに、が今のところの結論です。


蒸すと焼くの違いを整理しました
四種類やってみて分かった違いを、表にまとめます。
| 項目 | 蒸す | 焼く |
|---|---|---|
| 食感 | しっとり。やわらかく、崩れやすい | 表面が締まる。皮がパリッとする |
| 香り | 素材そのものの香り | 香ばしさが出る |
| 塩気 | 角が取れて丸くなる | そのまま立つ |
| 脂 | 落ちるが、身にも残る | 落ちて、焦げの香りに変わる |
| 油 | 不要 | 魚から出る脂だけで足りる |
| 手間 | 並べて火にかけるだけ | 途中で返す必要がある |
| 後片づけ | せいろを洗って乾かす | グリルの受け皿と網を洗う |
| 失敗のしかた | 蒸しすぎて崩れる | 焦げる、生焼けになる |
| 状態の確認 | ふたを開けるまで見えない | 見ながら調整できる |
レンジとの違いにも触れておきます。レンジは水分が飛んでいく方向に働くので、温め直すと固くなりがちです。蒸しは逆で、水分を抱えたまま火が入ります。同じ「加熱するだけ」でも、仕上がりは正反対でした。
蒸すのが向く日、焼くのが向く日
使い分けの目安も、だいたい見えてきました。
蒸すのが向く日
- 洗い物を減らしたい日。グリルを使わないだけで、片づけが軽くなります
- 火のそばを離れたい日。並べて火にかけたら、あとは待つだけです
- 副菜も一緒に作りたい日。せいろは面積があるので、魚の横で野菜も蒸せます
- 温め直しをしたい日。作り置きや市販のものを、固くせずに温められます
焼くのが向く日
- 香ばしさが欲しい日。この一点だけは、蒸しでは代わりになりません
- 皮を楽しみたい日。パリッとした部分は焼かないと出ません
- きれいに盛りつけたい日。蒸すと崩れるので、形を残したいなら焼きです
- 短時間で仕上げたい日。せいろは湯を沸かす時間が要ります
うちの場合、いわしの一夜干しは焼きが基本のままです。毎日食べるものなので、香ばしさがあったほうが飽きません。そこに時々、蒸しを混ぜて変化をつける形に落ち着いています。
せいろで魚を蒸すときの注意点
四回蒸して、気をつけるようになったことが三つあります。
引き際を決めておく
蒸しすぎると崩れます。魚の厚みにもよりますが、様子を見ながら早めに火を止めるくらいでちょうどいいです。足りなければ足せますが、崩れたものは戻りません。
移し方を考えておく
蒸し上がった魚は、箸で持ち上がらないことがあります。ヘラを用意しておくか、器ごと蒸してそのまま出すか。事前に決めておかないと、最後の最後で崩します。
使ったあとすぐ乾かす
これは失敗から学びました。せいろにカビを生やしたことがあります。竹製なので、湿ったまま置いておくと一気にきます。蒸し終わったらすぐバラして、風の通るところに置く。これを習慣にしてから問題は起きていません。
四種類蒸してみて
同じ「魚を蒸す」でも、素材によって結果はまるで違いました。骨まで柔らかくなるいわし、崩れる鮭とアジ、別物になるうなぎ。
共通していたのは、油がいらないことと、身がしっとり仕上がることです。うちのように植物油を避けている家では、この二つだけでも蒸しを覚える価値があります。
そして、焼きの代わりにはなりません。香ばしさが欲しい日は焼くしかない。どちらが上ということではなく、その日にどうしたいかで選ぶものだと思うようになりました。
次は野菜や根菜も蒸すつもりです。にんじんやさつまいもを蒸して、塩だけで食べるのもよさそうだなと。葉物が高い時期は根菜に寄せることもあるので、そのときに役立ちそうです。
魚で四回、失敗と成功を繰り返しました。おかげで少しは加減が分かってきた気がしています。道具は使った回数だけ手に馴染むというのは、本当だなと思います。





